ここまで5回にわたり、杉の青々とした葉を挿した祇園の祠、「オカリヤ(御仮屋)」を紹介した。これらは、いずれも愛知県津島市に所在する、津島神社(津島牛頭天王:つしまごづてんのう)の神霊を迎え、祀る依り代である。
その形は多様で、屋根を持つ祠型で柱がある構造、柱は無く直置きのものから、牛の角を表現したもの、神輿型のものと、実にさまざまで、同様のものは愛知県や岐阜県にも分布している。
形は変化に富むものの、総てに共通するのが、全面に杉の葉を挿していることだ。今回は杉の持つ霊力について紹介しよう。
普段、何気なく使っている漢字には落とし穴がたくさんある。それは、音だけで表現する日本語(大和ことばとでも、呼んでおこう)を中国の文字である漢字に当てはめることにより、本来の言霊(ことだま)の意味が失われているからだ。「杉」は大和ことばでは「直木(す・ぎ)」という漢字を当てはめると、本来の意味がわかる。
天に向かってまっすぐに延びる杉の木は、神霊が宿り、降下する特殊な木という認識があった。そこで、杉だけを植えて聖域の森を形成することも全国で知られている。聖域の入口に2本の杉を植えて、その間から出入りする結界(けっかい:聖域の境)とし、これに横木を渡して固定すると神霊を運ぶ鳥が居着く「鳥居」となる。
青々とした葉は乾燥させて線香を作る。生木は地面に巣のように敷くと修験者の山中での寝床となり、枯れ枝を集めて燃やすと虫除けとなり、山中修行には欠かすことができない霊木であった。
このように杉の木は依り代となり、葉は実用的であると同時に、トゲトゲした形状が、魔物を追い払い、寄せ付けない能力があると考えられたので、杉のオカリヤのようなものが作られたわけだ。 (山)