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第72回 熊野信仰と袋井36 海の熊野と袋井

 

市内木原に所在する木原権現(現在の許禰神社)は紀州藤白王子権現を勧請(かんじょう)して成立したものであることを、旧神主家に伝わる『木原権現由来記』を紐解きながら紹介してきた。


藤白は熊野九十九(つくも)王子と呼ばれ、あまた存在する熊野の王子神のうち、最も重要視された「五体王子」と称される五柱の王子神の一つで、その神域から奥が熊野世界と考えられていた。藤白は都から見て、熊野の玄関口という位置づけであった。


その藤白王子権現が仏の姿に変化(へんげ)して顕れると、十一面観音(本地と言う)の姿となる。この十一面観音は熊野世界では、伊勢の天照(アマテラス)にあたると解釈している。三重県熊野市にはイザナミノ命の神霊が鎮まる花ノ岩屋がある。アマテラスはイザナミノ命の御子神なので二柱の神は親子関係となり、熊野側ではこれを根拠に熊野と伊勢は同体だと主張し、アマテラスを十一面観音として祀ってきた。藤白王子権現はアマテラスでもあるわけだ。袋井市内を流れる原野谷川流域の熊野系の寺社には、十一面観音像の濃厚な分布が見られる。例えば写真の富里王子権現の十一面観音像(室町)、西ヶ崎熊野三所権現像(江戸)、諸井十二所権現懸仏(鎌倉)、中野白山神社の懸仏(室町)などだ。


それは、伊勢を同体だと主張する熊野の古い信仰がこの地に置かれた県内最古の熊野山領である山名荘に直接伝わったからで、その後も両者の密接な交流が長く続いた歴史を反映している。 (完結・山)