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第44回 熊野信仰と袋井8 海の熊野と袋井

 

富里(鳥羽野村)の王子社


富里王子社の祭神は、若一王子権現(にやくいちおうじごんげん)という神と仏が合体した状態を顕わす権現様で、お顔の上に化仏(けぶつ)という化身を十体載せて合計十一の顔が表現された十一面観音坐像だ。


これは仏の持つ働きを象徴したもので、それほど多くの働きを同時におこなう能力を顕わしている。本来なら全身を表現しなければならないが、頭だけ付けて省略している。


観音像は一本の木を彫り込んだ、一木造(いちぼくづくり)の木彫仏で、高さ42.5センチメートルと小ぶりの可愛らしい仏さまだ。製作年代は室町時代で、持仏の蓮の花も当時のものである。


仏様の表面は金色に光り輝いているので、金箔が押され、着衣も彩色が施される。これに対し、この像は彩色が認められるのは髪の毛と眉毛、目、唇だけで、最初から白木のままの姿になるよう意識して造られている。底を見ると、身体の中心に木材の芯が来るように木取りされ、荒い鉈の削り痕をそのままにした仕上げで、御神木を使って彫られたものと考えられる。


この十一面観音像は「仏の姿をした、神」という表現がふさわしい典型的な神仏習合(しゅうごう)の像である。


このように、お宮の祭神として祀られる仏を、本来の姿が仏であるという意味から、本地仏(ほんじぶつ)と呼び、平安時代後期以降には、お宮の多くが本地仏を祀っていた。(山)