トップページ > 図書館だより・出版物> 伝えたい袋井のあゆみ> 第42回 熊野信仰と袋井6 海の熊野と袋井 

第42回 熊野信仰と袋井6 海の熊野と袋井

 

王子の岩屋


『日本書紀』『古事記』に記された神話の世界が体験できるとあって、花の窟に訪れる観光客は多い。しかし、その傍らにある、王子の岩屋を認識できる人はまずいないだろう。


花の岩屋の祭壇の反対側に一回り小さな祭壇がある。その背後には一周10数メートル、高さ4メートル程の岩塊があり、これを神を迎える座、磐座として祀っている。よくみると、岩塊の上には突起状の岩が飛び出しており、これこそが神界から神霊を迎える座、鼻=花(はな)というものであることがわかる。さて、これは何者だろうか。


平安時代中期の増基法師(ぞうきほうし)という旅の僧侶が残した熊野地方最古の紀行文『いほぬし』には「ようやく花の岩屋の根本まできた。見ると、岩屋の山の中には幾つも穴を空け経典を納めている。これは弥勒菩薩が出現する来世に残すために納めるもので、天女が下ってきて供養するという。良くみると、この世に似た場所はなく供養の卒塔婆が埋もれたところさえある。傍に王子の岩屋というものがある。ただ、松の木だけが生えた小山で、その中に色の濃い紅葉が含まれている様子は、実に神の山というにふさわしいものだ」と記している。


花の岩屋とは、「岩の住まい」という意味で母神の住みか、その傍らには子供神の住みかである、「王子の岩屋」があるという構図だ。この王子神がのちに単独で社で祀られるようになり、熊野信仰が盛んな袋井にも伝えられ、現在も地域で祀られている。(山)