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第40回 熊野信仰と袋井4 海の熊野と袋井

 

熊野の寄り来るカミ


「熊野」という音の響きを聴いたなら、たいていの人は和歌山県の熊野地域だと理解してしまうだろう。ところが実際は三重県側も含めた広大な範囲に及び、熊野市という名を付けた行政区は三重県側にある。


袋井にゆかりの深い「海の熊野」は、むしろ三重県側の海辺の漁村のあちこちに、独特の文化遺産を残している。その一つが三重県尾鷲市賀田町の浜部に張り出した島状の砂州に繁茂する巨樹群を、海の彼方から寄り来るカミの依り代(よりしろ)として祀ることから始まる飛鳥(あすか)神社だ。


スカとは砂州を指し、そこに自生する樹木には斧を入れることが禁じられた。つまり、自然のままの空間を残した神の領域というわけだ。


もう1箇所紹介しよう。尾鷲市中心部へ入る湾入口の大曽根浦には、自然林が生い茂る岩山状の陸地に貼り付いた島がある。もちろん、社という人工物は存在しない。ここは尾鷲地方一の神社である、尾鷲神社(大宝天王社)御神宝の獅子頭(熊野権現の神霊は獅子頭を依り代とする場合があり、これを祀った神事がとりおこなわれる)が打ち上げられた神聖な場所とされる。


その先端には、「夫婦岩」と呼ばれる大小二個の岩塊が海中より突き出し、今も一年に一回、注連縄を張り替える神事が続けられている。寄り来るカミを祀る空間の原型とは、このような自然物であった。(山)