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第38回 熊野信仰と袋井2 海の熊野と袋井

 

寄り来るカミをまつる 1


浅羽と横須賀との境には、弁財天川という流れがほとんどない川が存在する。それもそのはずで、これは内陸部に深く入り込んでいた潟湖(せきこ/ラグーン)の名残で、大地震に伴う地盤隆起や、堆積物によって水域が次第に陸化したからだ。


17世紀初めまでの原野谷川と太田川は合流せず、しかも、今とは違い直接海に注ぎこむ川ではなかった。川を流れてきた水は海岸に堆積した分厚い砂堤に阻まれ、現在の150号線の南に溜まり、広大な湿地帯や湖を形成しており、弁財天川河口付近が唯一潟湖の入り口となって遠州灘に通じていた。


ここが海の熊野と繋がる唯一の扉でもあり、先号で紹介した寄木神は、この扉の両側に祀られている。東側が沖ノ須村の寄木大明神、西側が西同笠(にしどおり)村の寄木大明神である。明治初期の神仏分離令によって、社名は寄木神社、祭神もスサノヲノミコトに変更となり、歴史的な経緯が不明となってしまったが、この信仰の根源は、海の熊野の信仰に通底し、海のかなたの観音浄土から流木に乗って寄り来るカミを祀ることにより、人々に福をもたらしてくれるという漂着信仰が背景にあった。


寄木大明神、現在の寄木神社はこうした海の熊野の基層信仰から成り立っている。(山)